第2章:青年期
第2章:青年期 = 生まれた我が子は =
「もうすぐですよ! きっと可愛いお子さんですよ!」
「男の子かな? それとも女の子かな?」
私は産院の待合室にいた。
看護婦(現看護師)さんの動きが慌ただしくなって来た。
生まれて来る子はどっちに似ているのかな~?
辛く悲しい少年時代を過ごした私にとって、生まれて来る子は男でも女でも良い。
私のような悲しい目にだけは絶対に逢わせたくない。
とにかく無事に生まれて来てくれ!
未来の幸せな家庭像を夢に描きながら産声を待っていた。
しばらくしても産声が聞こえない。
気のせいか看護婦の動きが先ほどよりも慌ただしい。
・・・どうしたんだろう?・・・
と・・・・・「口蓋破裂です。どうしますか?」
※注:≪口蓋破裂≫は≪口蓋裂≫とは違い、口全体が破裂して人間の顔をとどめない。
産声も上げず私の目の前に現れたのは、手足を動かす目の下からぽっかりと穴の開いた男の新生児である。
目の前が真っ暗になった。
何をどうして良いのか分からなかった。
その場に立っていられなくなった事を記憶している。
ただその瞬間・・・。
私の描いていた人並みの家庭への憧れは、音を立てながら崩れ去ったことだけは確かな事実である。
産後にシッョクを与えないため、妻には子供に会わせることなく別の理由をつけて隔離した。
転院先の病院の担当医は開口一番、「これはひどい!」
27年前、私が火傷を負った時に両親が聞いた言葉とまったく同じ言葉である。
「必ず言語障害が残ります。覚悟してください。」
「あなたのお住まいの近くに言語教室がありますので紹介します。」
医師の言葉は淡々としていた。
しかしそれは、またしても私の人生を変えること以外の何ものでもなかったのである。
美容整形扱いなので保険は使えないという。
言語教室も当時の金額で、1ヵ月30万円位かかるというのである。
0歳児のみどり子に、合計7回のメスを入れる。
この時、形は違ったが27年前の両親の心境が理解できた。
会社を辞めた私はすぐに大型免許を取り、大型ダンプに乗り手術費捻出に専念した。
昼もなく夜もなく無我夢中で働いた。
自分の身体が何処にあるのか分からないほど、疲れきった毎日だった。
そんなことより、我が子の将来が案じられた。
この子も私と同じ思いをする・・・。
そう思うと知らない間に涙が頬をつたうのである。
「何故? なぜ私だけこんなに辛い人生を歩むのか?」
ここには記していない他の経験をも含め、これは偽らざる私の心境であった。
NIJI 27歳の秋。
第3章:壮年期〔社会の厳しさ〕につづく。